ピリカメル

植物とともに美しい世界を創造してゆく

鳥兜

その気高きもの

 

毒をもって阻み

 

不用意には近づくことができない

 

 

知恵ある選ばれしものだけが

 

その無限の愛に触れる

 

 

けれど愛は全てのものの帰りを待っている

 

 

 

 

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トリカブトは不思議な気高さを放っています

 

紫の烏帽子のような花のかたち

(英名Monkshoodは修道士のかぶりものの意)

 

その名は、舞楽で用いられる鳳凰の冠「鳥兜」に似ていることから由来しているそうです

 

 

人や動物を寄せ付けない毒

 

花粉を運ぶ虫たちは毒の影響を受けずに蜜を吸うことを許されています

 

 

 

 

 

 

 

トリカブトは 気温が低く程よく湿った、北側のあまり陽の当たらない涼しいところを好みます

 

北海道では標高が低くても生息し、身近な自然の中でも出会えます

 

 

アイヌの人々はトリカブトの毒矢で巨体のクマを射て、神の恵みを受け取っていました

 

 

 

猛毒を持ち、人の命をも奪う毒草だけれど

 

人間はこれを薬として用いる知恵を得ました

 

適切な加熱処理またはアルカリ処理※1によって減毒し、薬としたのです

 

 

適切に処理されたものは

 

附子(ぶし)または烏頭(うず)※2として漢方処方に配せられます

 

 

 

少量でも温める効果が強く

 

冷えによる痛み、発熱など、、

 

陽氣の巡らないことから起こる様々な不調和に用いられます

 

 

北の方角を司る玄武という神獣の名前を持つ

 

玄武湯(真武湯)という処方がありますが

 

処方を構成する附子の色が黒く(成分が強いほど黒い)

 

その強く温める作用から由来していると言われます

 

  

北海道の地に佇む、その気高い姿を見ていると

 

そこに北を司る神を宿しているということがとてもしっくりくるのです

 

 

反対の、南の方角を司る朱雀、鳳凰の冠のかたちが

 

表現の強い器官である花の中に生まれているのもとても興味深いものです

 

極まると反対のかたちが立ち現われることを見せてくれているように思います

 

 

 

 

風邪など比較的病の浅いもの(もともと冷え体質の方)から

 

厥陰病といって、生命の火が風前の灯火のように弱まっている段階に用いる処方にも配合されます

 

 

一方で命を失くす毒にもなるけれど

 

尽きかけた命を呼び戻す場合もあるという

(そういうときこそ神業的な絶妙なさじ加減が必須、及びませぬ、、)

 

 

 

 

危険な毒としてだけではなく

 

苦しみから助けてくれる薬としてだけでもなく

 

両方の側面を心得てはじめて

 

そこに通っている恵みを受け取れる繊細な世界

 

 

 

 

絶対的な毒も、絶対的な薬もないのです

 

 

両方を愛し

 

適度な距離をとり

 

慢心せず、感覚を研ぎ澄まして向き合うことができますよう

 

 

 

今年も愛いっぱいに花を咲かせてくれてありがとう

  

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※1加熱処理またはアルカリ処理によって

アコニチンというアルカロイド加水分解して減毒されます

 

私が教わったのは

濡らした和紙で塊根を包んで、熱した灰でホクホクに蒸して皮を剥き

りんごのように真ん中の軸から縦に均等に切り分ける(こうすることで成分量のばらつきを避ける)というもの

 

生のまま乾燥させ、小さく切り分け、微量に使う場合もあります

 

 

※2定義は様々ありますが

私の教わった流派では

夏の終わりから秋に母根を採取したものが“烏頭”

その母根の脇にできた子根を採取したものが“附子”

ちなみに子根が成長し春にエネルギーの高まったものは“天雄”(てんゆう)と呼びます